「あ、わらび餅!」っていつまでも言いたい

「あ、わらび餅」そう言って家を飛び出すとき、ちょっとしたイベントのような興奮に包まれます。無事にわらび餅のトラックに追いついて、わらび餅を手にいれることができたらほっとして、爪楊枝で冷たくて柔らかいわらび餅を口に入れて「美味しい」という。この一連の風景が何年も我が家の夏に繰り返されてきました。1年に1〜2回でそんなに頻繁なことではないのですが、なぜか夏の景色として脳裏に焼き付いているのです。

そして今年も同じおじさんがわらび餅をトラックで売りにきてくれました。もう子ども達が自立して家にいないので、なかなか買う機会がなかったなのですが、末っ子ちゃんが帰省していたときに、「わらびー餅、甘くてうまーいよっ」というスピーカー音が聞こえて、「あ、わらび餅!」そう言って二人で靴を引っ掛けて飛び出して、暗闇の中に光るトラックに向かって走っていき、サイズをちょっとだけ迷って(100円、300円、500円があります)注文しました。

その時おじさんは皆既月食のことを説明しながら、わらび餅にきな粉をたっぷりまぶしてくれました。月の明かりと、トラックのライト、その中でプルプルと揺れるわらび餅を見つめながら聞く月の話。「これがずっとずっとなくならなければいいのに」と心の底から思いました。なぜかこの風景が平和の象徴のように感じたのです。

家まで帰る途中にお父さんと男の子の親子とすれ違いました。そのお父さんが「あ、わらび餅だ」と一言発してわらび餅のトラックに吸い寄せられていきました。その「あ、わらび餅!」に私は嬉しさと、そして切なさを感じたのです。わらび餅のトラックが来る時代はあとどれぐらい続くのだろう。そしてこの平和な日本はいつまで続くのだろうとなぜかその二つが結びついてしょうがなかったのでした。

そんな感情に取り憑かれていた私は「あ、わらび餅!」と言って飛び出したくて、子どもがいない次の週も(おじさんは日曜日にきます。)買いに行きました。おじさんに「いつまでわらび餅やりますか?」と聞いたら「今日が最後だよ」と言われびっくりして「今年の最後でしょ?」と思わず確認してしまいました。もう10月なんだから当然なのですが、来週からは焼き芋です(笑)。

「あ、わらび餅」と言って飛び出すことができる平和ができるだけ長く続きますように。

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